東京地方裁判所 昭和47年(ワ)8210号 判決 1973年6月28日
主文
被告は原告に対し七三万五〇〇〇円及びこれに対する昭和四八年四月二五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、その一〇の三を原告の、その余を被告の各負担とする。
この判決の主文第一、第三項は仮執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
「被告は原告に対し一一四万七三九〇円及びこれに対する昭和四八年四月二五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言を求める。
第二請求の原因
一 被告はもと原告の従業員であつた。
被告は、原告の従業員であつた間、原告所有の自動車を運転し、その過失により昭和四七年五月六日午後一一時頃茨城県行方郡牛堀町大字上戸三二三六番地農業関清方家屋に同車を衝突させて、同家屋、同車両及びその積載商品を毀損した。
なお、被告は原告との雇傭契約により、原告の許可なく自動車を運転してはならないとされていたのに、勝手にこれを運転して右事故を惹起したものである。
二 原告は、右事故により、次の損害(合計一一四万七三九〇円)を蒙つた。
1 原告は使用者責任を問われ、被害者関清との間に示談し、これに基いて、右家屋修理費八万五〇〇〇円を出捐し、同人に対し慰藉料三万円を支払つた。
2 積載商品の毀損による損害は一八万円を下らない。
3 右車両が使用不可能となつたため、営業業績が極度に低下し、今日までに七〇万円の利益を失つた。
なお、被告は右車両の修理をしたものの、修理は不完全であつた。
4 前記示談、被告との接渉その他諸雑費合計は一五万二三九〇円である。
なお、原告は、今日まで被告の前記不法行為に基づく車両の再修理や右家屋修理費その他の弁償方法につき話し合うため、書面又は電話連絡によつて話し合おうと努力したが、被告は誠意ある回答を示さないのみか、その叔父は、却つて原告に対し暴言暴行を加える始末であり、それでも尚話し合いたいと江戸川簡易裁判所昭和四七年(ノ)第五九号で債務弁済調停の申立をしたのに全然出席をしない為これが不調となつた。
三 依つて原告は被告の右不法行為による損害賠償として、被告に対し右損害一一四万七三九〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四八年四月二五日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三被告の主張
被告は口頭弁論期日に出頭しないが、初回口頭弁論期日までに提出した答弁書には次の記載がある。
一 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。
二 請求原因事実のうち、被告が原告の従業員であつたこと、事故車両が原告の所有であること、被告が同車を修理したことは認めるが、その余はすべて争う。
被告は右車両を被告の負担で完全修理を了した。
第四証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
〔証拠略〕によれば、被告は、原告主張の日時場所において原告所有の自動車(ニツサンサニー三〇〇デラツクスバン、足立四四に七〇一四、以下甲車という)を運転走行中、運転を誤り、関清方家屋に甲車を衝突させ、同家屋等を損壊したことを認めることができる。
そこで、被告は民法七〇九条により原告が蒙つた損害を賠償しなければならない。
二 損害
1 (家屋修理等)〔証拠略〕によれば、被告は関清に対し昭和四七年五月九日本件事故の加害者として右家屋の破損個所(柱、押入、窓ガラス、ブロツク塀など)を自己の負担で修理するほか、示談金として三万円を支払う旨約したが、被告がこれを履行しなかつたため、事故時被告の使用者である(この点は争がない。)原告において鳶職萩小田徳三に依頼して右修理を了し、同月一五日その請負代金八万五〇〇〇円(弁論の全趣旨により、右修理に必要な額と推認するのが相当である)を同人に支払つたほか(同月二二日右示談金三万円を関清に支払つたことが認められる。
原告が右のとおり出捐した一一万五〇〇〇円は本件事故による損害というべきである。
2 (積荷)本人の供述によれば、原告は頭飾品類等の販売を業とするものであること、事故時甲車には、原告所有の商品である櫛、鏡その他頭飾品類を積載していたところ、これらは本件事故により毀損して商品として販売することができなくなつたこと、右物件の棚卸価格は一八万八〇〇〇余円であつたが、事故後、これを五〇〇〇円で漸く処分することができたことが認められる。
右事実によれば、積載商品の毀損に因つて原告の蒙つた損害は一八万円を下らないものといわなければならない。
3 (営業収益)〔証拠略〕によれば、次の各事実を認めることができる。
原告は、事故当時被告を含む従業員二、三名を用いて車両三台(甲車を含を)を擁して前記営業をしてきたものであるが、その売上げの大半は右自動車で商品を薬局、小間物商らの顧客の店先まで持参したうえ、即時同所で成約、引渡、代金受領を了する形態によるものであつた。その売上げ高は一車当り月一〇〇万円を下らず、純益はその二三%位であつた。
甲車は、本件事故により大破し、はじめ被告において修理を引受け、修理を完了したものとして原告に返還してきたが、その後においてもなお、かなりの修理を要し、到底使用に堪える状態でなかつた。そして、原告は、そのため、事故後三ケ月半にわたり稼働車両を一台減じ、その結果、営業収入にかなりの影響を受けた。
右事実によれば、原告が事故後三ケ月半にわたり稼働車両一台を減じたことは、本件事故により甲車が損壊したことに基因するものといわなければならない。そして、前記営業形態からすれば、稼働車両の減少により、特定顧客との継続的取引が中断されて、今後の売上げに種々の悪影響を及ぼすことが明らかである。
ところで、本件事故と相当因果関係のある損害としては、右の営業損害のうち、三ケ月半の期間の甲車同種車両の賃借料及び附随諸費用の通常価格と認められる三五万円とみるのが相当である。
4 (雑費)本人の供述によれば、原告は前記家屋の修理に関し、建築職人の現地における宿泊、食事代金等として一万円を下らない支出を余儀なくされたことが認められ、この支出は本件事故による損害ということができる。
5 (弁護士費用等)〔証拠略〕によれば、原告は被告に対し本件賠償につき交渉の努力を重ね、代表者において被告の所在調査、交渉のため屡々肩書被告方に赴いたが、被告は右請求に応じようとしなかつたこと(経緯は請求原因二4後段のとおり)、右のための交通費等として原告は一万円を下らない支出を要したこと、原告は調停申立及び訴訟提起と追行を弁護士である本件訴訟代理人に委任し、着手金等七万円を支払つたほか、報酬として認容額の一割を支払う旨約していることが認められる。
本件交渉及び調停、訴訟の経過、認容額等にてらし、右支出のうち、本訴状送達の日の現価において八万円が本件事故と相当因果関係のある損害として被告の負担すべきものとみるのが相当である。
6 (まとめ)以上のとおりであるから、原告が被告に対し支払を求め得る本件事故に基く損害は告計七三万五〇〇〇円である。
三 結論
原告の本訴請求は損害賠償七三万五〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年四月二五日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高山晨)